A(エース)社会保険労務士法人の足立徳仁です。
このコラムでは、人事・労務に関する様々なQ&Aや法改正情報、助成金・補助金などの新着ニュースをお届けしてまいります。
従業員の意見を就業ルールに反映させて、職場環境を改善していくために必要不可欠なのが『
従業員代表』です。
特に労働組合がない場合の中小企業では、『
従業員代表』の選出が必須となります。
本日は、『
従業員代表』の選出にあたっての要件・方法、また担う役割や労働組合との違いについてご案内いたします。
従業員代表とは?
従業員代表とは、
従業員の過半数を代表する者のことです。
従業員全体の意見を取りまとめ、
企業側に提言する役割を担っています。
労働基準法において、労働条件の中でも重要事項については、労使協定を締結することが企業に義務付けられています。
労使協定の締結は企業と労働組合が行いますが、
従業員の過半数で組織される労働組合がない場合には企業と従業員代表が協定を結びます。
労使協定は事業所ごとに締結するため、従業員代表も原則として
事業場ごとに1名選出が必要です。
任期についての定めは、法律上、特にありません。1年度をサイクルとして行われることが多い人事異動のタイミングなどを考慮して、任期は
1年程度としている企業が一般的であるようです。任期を定める場合は、選出の際に目的と合わせて任期も明示しましょう。
労働組合との違いは?
従業員代表は労働組合の代わりに労使協定を締結できますが、労働組合とまったく同じ権限を持っているわけではありません。従業員代表には明確な法的地位が認められておらず、
締結した協約・協定の適用範囲も異なります。
企業と
労働組合とで結ばれた
労働協約は
組合員のみに適用されるのに対し、
企業と
従業員代表が締結した
労使協定は、
組合員・非組合員の区別なく適用されます。
「労働組合」 法的地位:労働組合法により認められている 協約・協定の適用範囲:組合員のみ 「従業員代表」 法的地位:明確には認められていない 協約・協定の適用範囲:すべての従業員(非組合員や管理職含む) |
従業員代表の役割
従業員代表の最たる目的は、労働組合がない企業の従業員全体の意見を取りまとめて企業側に提言することです。具体的には、
労使協定の締結や、
就業規則の作成・改定に関する意見陳述などを行うことで、従業員の過半数の意思を反映した働き方を実現させること、また労働基準監督署へ届出時に添付する「
意見書」への意見の記載なども行います。
法律上で締結する労使協定は様々(※)ですが、代表的な協定としては「時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)」です。
※企業と従業員代表が締結する労使協定などの種類 ・時間外労働・休日労働に関する協定(36協定) ・就業規則の意見書 ・年次有給休暇の計画的付与 ・賃金控除 ・育児・介護休業の適用除外 ・一斉休憩の適用除外 など |
従業員代表の選出の要件
従業員代表になれるのは、選出要件を満たす労働者全員です。
要件を満たしていれば、
正規労働者だけでなく、
アルバイトや
パートなどの
非正規労働者や
出向している従業員も対象となります。
その
選出要件とは次の2つです。
① 管理監督者でないこと 管理監督者とは、労働条件や人事、労務管理について経営者と同等 の立場にある従業員のことです。管理監督者は管理職であるとは限ら ず、部長や課長といった役職を付与されていても、労働条件や人事の 決定権を持っていなければ管理監督者には該当しません。
管理監督者は従業員代表にはなれません。 もし管理監督者に該当する従業員が代表として選出され、労使協定 を締結して労働基準監督署に届け出た場合、その協定は無効となりま す。 |
② 使用者の意向に基づいて選出された者でないこと 従業員代表を選出する際は、「労使協定の締結などを行う従業員代 表の選出が目的である」と明示したうえで、挙手や投票、話し合いな ど民主的な方法によって選任しなければなりません。
企業側からの指名や、社員親睦会の幹事を従業員代表として自動的 に任命するなど、使用者の意向をもとにした選出はできません。使用 者の意向に基づいて選手された者による協定は無効となります。 |
不利益取扱いの禁止
企業側は、「
従業員代表であること」「
従業員代表に立候補したこと」「
従業員代表としての正当な行為を行ったこと」を理由とした
賃金の減額、
降格や
解雇などの
不利益な取り扱いは、労働基準法において
禁止されています。
企業は、
従業員代表が
役割を円滑に遂行できるように配慮しなければなりません。
適性に従業員代表が選出されていない場合
労使協定が適正に締結されていないと評価される場合の多くが、「
適正に従業員代表が選出されていない」ことの理由です。
適正に従業員代表を選出しないこと自体についての罰則はありませんが、適正に従業員代表を選出していなければ
労使協定が
無効となります。
結果として企業は、何らかの
罰則を受ける結果になってしまいます。
労使協定が適正に締結されることにより、企業は法令等違反についての罰則は免除されます。【例】36協定が無効となった場合
労働基準法違反:罰則6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
労働基準法上、
法定労働時間(
1日8時間・
週40時間)を
超えての労働(
時間外労働)や、
休日労働(
法定休日労働)はできないと定められており、
違反すると上記の
罰則が適用される可能性があります。
しかし、
36協定(
労使協定)を締結すれば、法定労働時間を超えて労働させたとしても
罰則の適用が免除されます。
締結時の
従業員代表の
選出が
不適切あったと判断されたり、
限度時間(
月45時間・
年間360時間)を
超える36協定は
無効となり、
罰則が
適用されます。
※
36協定は労使協定を締結後、管轄の労働基準監督署へ届出が必要です。
従業員代表と締結した労使協定の効力は?
労使協定の効力は「
免罰効果」に留まります。
免罰効果とは、法令違反があったとしても「
罰則は適用しない」ということです。
36協定を締結したからといって、当たり前のように残業命令ができるわけではありません。実際に残業命令をするためには、
個別の契約により同意をとるか、
就業規則に「
労使協定に定めた範囲内の時間で残業をさせることがある」などの定めを設ける必要があります。
従業員代表を適切に選出してより良い職場づくりを!
従業員代表は、従業員の過半数を組織する労働組合がない企業において、
就業規則や
労使協定の締結に
必要不可欠です。
従業員側の意見を取りまとめて企業へ提言する立場であり、
職場環境をより良くする重要な役割を担っているといえます。
健全で働きやすい職場づくりのためにも、
適切な方法で
選出手続きを行うようにしましょう。
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