A(エース)社会保険労務士法人の足立徳仁です。 このコラムでは、人事・労務に関する様々なQ&Aや法改正情報、助成金・補助金などの新着ニュースをお届けしてまいります。
先日、令和7年度(2025年度)の地域別最低賃金の改定の目安が、厚生労働省 中央最低賃金審議会から答申されました。 今回の答申では、全国加重平均で66円(約6%)の引き上げが見込まれており、最低賃金は全国平均で1,121円になる予定です。
この引き上げは、従業員の賃金のみならず、企業の人件費構造そのものに大きな影響を与える可能性があります。
本コラムでは、今回の改定を踏まえた実務対応のポイントを整理し、経営判断に役立つ情報をお届けいたします。
最低賃金はどこまで上がる?~過去最大級の引き上げで「1,121円」時代へ~
政府は、「2020年代のうちに最低賃金全国平均1,500円」の実現を掲げています。 その実現に向けて、2025年度の目安として提示されたのが「全国平均66円アップ(+6%)」という大幅改定です。
この66円という引き上げ幅は、過去の引き上げ幅(昨年度は43円)を大きく上回る水準であり、最低賃金の上昇ペースが一段と加速していることを示しています。
各都道府県の具体的な金額は8月中旬以降に正式決定される予定ですが、今年はほとんどの都道府県で1,000円を突破する見通しです。「ウチの地域はまだ900円台だから大丈夫」とは、もはや言えない状況です。
最低賃金改定の都道府県別一覧
| 都道府県 |
2024年度 |
2025年度(目安) |
増加額 |
| 京都府 |
1,058円 |
1,122円 |
+64円 |
| 大阪府 |
1,114円 |
1,177円 |
+63円 |
| 兵庫県 |
1,052円 |
1,116円 |
+64円 |
| 滋賀県 |
1,017円 |
1,080円 |
+63円 |
| 福井県 |
984円 |
1,053円 |
+69円 |
出典:令和7年度地域別最低賃金額改定の目安について
影響が出やすい層と「波及的コスト」に注意 ~時給だけでなく給与全体のバランス調整を~
最低賃金の引き上げにより、まず対応が必要となるのはパート・アルバイトなど非正規労働者です。 これらの従業員の時給額が新たな最低賃金を下回る場合、即座に賃金改定が必要となります。
しかし、調整が必要なのは彼らだけではありません。非正規従業員の昇給によって、正社員や中堅層との給与差が縮まることで、「他の等級も昇給せざるを得ない」という状況に陥ることもあります。
このような「波及的昇給」は、
● 等級別賃金バランスの崩壊 ● モチベーション低下による離職リスク ● 企業全体の人件費増加
といった副作用を引き起こす可能性があります。
さらに、最低賃金の引き上げによって、残業代単価・賞与計算・社会保険料など、関連コストも増加します。
単純な「時給66円アップ」では済まされない影響を受けることを念頭に、人件費全体のシミュレーションと制度再設計が必要です。
コスト増だけで終わらせない!~業務改善・人件費最適化のチャンスに~
この最低賃金引き上げを、単に「経費負担」として捉えるのではなく、業務の効率化や組織改革の機会と考えることもできます。
例えば、
☆業務フローの見直しによる生産性向上 ☆シフト管理や稼働時間の最適化による稼働率アップ ☆単純作業の自動化・アウトソーシングによるコスト削減 ☆人員配置の見直しによるムダの削減
などを通じて、賃上げに伴うコストを吸収できる可能性があります。
また、「今後も毎年のように引き上げが続く」と想定し、短期的な対応ではなく中長期的な人件費戦略を立てていくことが求められます。
助成金制度を活用した“攻めの対応”を
人件費負担が増える中で、政府も企業の業務改善を後押しするための支援策を用意しています。 代表的なものが、「業務改善助成金」です。
業務改善助成金は、生産性向上に資する設備投資等(機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練)を行うとともに、事業場内最低賃金を一定額(各コースに定める金額)以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部(最大600万円)を助成するものです。
【例】 – POSレジの導入 – 業務効率化ソフトの導入 – 自動釣銭機の設置 – パート用の教育研修プログラムの構築
など、幅広い設備投資が対象になります。
申請には賃金引き上げや事業計画の整備が必要ですが、正しく使えば経営への負担軽減に大きく貢献します。 ご希望があれば、申請可否の診断や申請支援も承りますので、お気軽にご相談ください。
出典:厚生労働省 業務改善助成リーフレット
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最低賃金の引き上げに対応する中で、非正規従業員の待遇改善を検討されている企業様にとって、 「キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)」も有効な支援制度です。
この制度は、次のようなケースで活用できます。(※主な要件のみ) ✅ パート・アルバイト・契約社員など(いずれも雇用保険被保険者)の賃金規定を改定し、基本給を3%以上引き上げた場合 ✅増額改定後の賃金が6か月以上支給されていること
支給要件を満たすと、対象労働者1人あたり最大7万円(中小企業)の助成金が支給されます。
最低賃金の改定に合わせて、非正規社員の賃金規定を整える企業は少なくありません。 今回の最低賃金が適用される1日でも前の日に最低賃金の額に昇給することで、対象になり得ます。 このタイミングであれば、制度活用のハードルも比較的低いため、ぜひ活用をご検討ください。
要件や具体的な進め方については、お気軽にご相談いただければと思います。
出典:厚生労働省 キャリアアップ助成金のご案内(令和7年度版)パンフレット
いますぐ取り組むべき!実務対応チェックリスト ✅
最低賃金の施行は例年どおりであれば「2025年10月1日頃」からと予想されます。すでに時間は限られています。 下記の実務対応を早めに進めましょう。
✅ 自社の時給・給与水準と最低賃金との差の確認 ✅ 該当者の洗い出しと影響試算 ✅ 昇給対象の範囲と実施時期の検討 ✅ 賃金規程・就業規則の見直し ✅ 社内への周知・説明準備 ✅ 助成金制度の適用可能性チェック
まとめ
今年の最低賃金改定は、単なる労務対応にとどまらず、企業全体のコスト構造と人材マネジメントに関わる大きな経営課題です。 「気づいたら法令違反だった」「慌てて調整して現場が混乱した」とならないよう、今のうちから戦略的に備えておくことをおすすめします。
ご不明な点や貴社に合わせた対応のご相談は、どうぞお気軽にお声かけください。
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