
A(エース)社会保険労務士法人の足立徳仁です。 このコラムでは、人事・労務に関する様々なQ&Aや法改正情報、助成金・補助金などの新着ニュースをお届けしてまいります。
常時10人以上の従業員を雇用する事業所は、就業規則を作成し、労働基準監督署への届出を行う必要があります。また、従業員が10人未満でも、トラブル防止のために就業規則の整備を行う事業所は増えています。 しかし、労働条件の変更や法改正に対応がなされず、作成した当時の内容のままで就業規則の変更を行っていない事業所も存在します。
本メールマガジンでは、就業規則の変更についてのポイントを整理し、役立つ情報をお届けいたします。
就業規則の届出
常時10人以上の労働者(※)を使用している事業場では、就業規則を作成し、過半数組合または過半数代表者からの意見書を添付し、所轄労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法第89条、90条)。就業規則を変更した場合も同様です。 ※時として10人未満になることはあっても、常態として10人以上の労働者を使用している場合も当てはまります。なお、労働者の中には、パートタイム労働者やアルバイトなども含まれます。 また、作成した就業規則は、各作業所の見やすい場所への掲示、備え付け、書面の交付などによって労働者に周知しなければなりません(労働基準法第106条)。
就業規則に記載する内容には、必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)と、事業場で定めをする場合に記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)があります(労働基準法第89条)。
絶対的必要記載事項
・始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇 ・賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切及び支払の時期並びに昇給に関する事項 ・退職に関する事項(解雇の事由を含む) |
相対的必要記載事項
・退職手当に関する事項 ・臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項 ・食費、作業用品などの負担に関する事項 ・安全衛生に関する事項 ・職業訓練に関する事項 ・災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項 ・表彰、制裁に関する事項 ・その他全労働者に適用される事項 |
参照:厚生労働省『就業規則を作成しましょう』
就業規則を変更するとき
就業規則を変更するタイミングは様々です。
【法改正への対応】 労働基準法や育児・介護休業法などの労働関連法令の改正が行われた場合には、改正後の法令に抵触することのないよう就業規則等を見直す必要があります。
【始業終業時刻、賃金体系などに変更があった場合】 前述の「絶対的必要記載事項」には、始業時刻、終業時刻が含まれるため、始業・終業時刻を変更する場合には就業規則の変更が必要です。
【経営状況が悪化した場合】 会社の経営状況が悪化し、賃金水準の維持が困難となる場合には、就業規則の賃金規程や退職金の条件などを変更せざるを得ないという状況も考えられます。ただし、従業員が不利となるような就業規則の変更(不利益変更)を行う際には合理性が求められます。
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その他、これまで詳細に定めていなかった事項が判明した場合にも、変更・追記を行うことは有効です。
トラブル防止のための就業規則内容の整備
ネットで検索して見つけた簡易的な就業規則の雛型をそのまま自社の就業規則として使用している場合、大きなトラブルにつながる場合があるため注意が必要です。
【休暇の取得】 年次有給休暇の他、慶弔休暇を設定している場合、取得の手続きや条件、日数などが明確でないと従業員からの不満につながるおそれがあります。
【各種手当の支給条件】 通勤手当や家族手当などの各種手当を定めている場合、支給条件を明確にしておかないと従業員からの不満につながるおそれがあります。
【退職に関する事項】 自己都合での退職となる場合に、退職の申告を退職予定日の○か月前までさせるものとして規定することで引継ぎがスムーズに行えるようにしておくことも重要です。また、解雇となる事案が発生した場合に、詳細な規定を定めておくことでトラブルとなるリスクを減らすことも可能です。 |
就業規則変更における注意点
就業規則の作成や変更では、従業員の過半数の代表者から意見を聴取し、労働基準監督署へ提出することが義務付けられています。ただし、同意を得ることまでは要件にはないため、聴取した意見が反対意見であっても、就業規則の届出を行うこと自体は可能です。変更内容に反対する旨の意見が記載されていたとしても、周知することで就業規則の内容は有効となります。
しかし、従業員に不利益となるような就業規則の変更を会社が一方的に変更することは禁止されており、そこには合理性が求められます。従業員が受ける不利益の程度や変更の必要性、変更後の就業規則の相当性も重要な要素となり、労働者側と十分な協議を重ねる必要があります。
従業員への不利益変更となる場合、従業員側との同意が得られない場合には裁判で争うケースもあります。過去の判例でも、規則の変更に関して高度の必要性がある場合に限り認められています。
不利益変更の具体例
【賃金に関する変更】 ・基本給の引き下げ ・役職手当や家族手当などの手当の廃止や減額 ・定期昇給の廃止や制度の変更 【労働時間や休日に関する変更】 ・所定労働時間の延長 ・休日の削減、休暇を有給休暇扱いに変更する 【福利厚生その他】 ・退職金支給条件の厳格化、退職金制度の廃止 ・定年年齢の引き下げ ・通勤手当の廃止
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不利益変更が有効になる要件(合理性の判断)
・労働者が受ける不利益の程度 ・労働条件変更の必要性 ・変更後の就業規則の内容の相当性 ・労働者側との交渉の状況 ・その他、就業規則に変更に係る事情 |
裁判例
【第四銀行事件】(最高裁 平成9年2月28日) 概要:定年を55歳から60歳に引き上げた一方で、55歳以降の賃金を6割程度に引き下げる就業規則変更を実施。 判断:裁判所は、不利益を補うための定年延長や福利厚生の充実、9割の従業員が所属する労働組合との合意など、複数の要素を考慮して変更の合理性を肯定しました。不利益のみならず有利な変更もセットで行われたケースとなります。
【みちのく銀行事件】(最高裁 平成12年9月7日) 概要:経営が悪化していた地方銀行が、55歳以上の管理職を専門職に降格させ、大幅な賃金カットを実施。 判断:裁判所は、経営上の必要性は認めつつも、特定の高年齢層に集中して大きな不利益を負わせることや、代償措置が不十分であったことなどから、変更の合理性を否定しました。 |
変更届の提出など
就業規則の変更について、従業員代表の意見書を添付し、所轄の労働基準監督委所へ提出を行います。提出期限については特に定められていないものの、後回しにしていると提出漏れとなる可能性もありますので、変更後は速やかに届け出を行いましょう。また、支店などがあり事業場が複数となる場合、変更手続きを行う場合は、各事業場ごとに個別に行う必要があります。それぞれの事業所を管轄する労働基準監督署へ手続きを行います。 就業規則を有効とするには、従業員への周知が必要です。就業規則は作業場の見やすい場所に掲示し、あるいは備え付けて周知をはかることとされています。掲示や備え付け以外では、書面を作成し従業員へ交付を行ったり、磁気ディスクに記録し従業員が記録の内容を常時確認できる方法(PCなどで確認できる方法)も認められています。すべての従業員が、就業規則を確認したいときにいつでも確認できるようにしておく必要があります。
参照:厚生労働省 『就業規則作成の9つのポイント』
過去の法改正など(一部抜粋)
【無期転換】 平成25年4月に施行された「無期転換ルール」は、同じ使用者(会社)との間で有期労働契約が更新され、通算5年を超えたときに、労働者の申し込みがあった場合には、使用者は「無期」労働契約に転換しなければならないルールのことです。 有期契約から無期契約となることで、期間満了での退職となることがなくなるため、無期転換した従業員の定年を設ける場合には、就業規則にも明記しておく必要があります。
【有給休暇の取得】 「働き方改革」の一環として、平成31年4月より改正労働基準法が施行され、年次有給休暇10日以上を有する労働者に対して、使用者(会社)は年5日以上の年次有給休暇を取得させることが義務化されました。使用者は有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に、5日間以上の有給休暇を取得させる必要があります。 労働者が自由な意思により5日以上取得できていれば問題ありませんが、5日間の取得ができていない場合は、使用者が時季を指定して取得させなければならないため、有給休暇取得に関するルールが曖昧な場合は、就業規則に明確に記載し、有給休暇の管理を行うことが重要となります。
【ハラスメントへの対応】 改正労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)が施行され、令和4年4月からは中小企業もパワハラ防止をするための対応を行うことが義務となりました。ハラスメントに関して明確なルール化はできていない場合は、就業規則やハラスメント防止規程等にてパワハラを含む各種ハラスメント行為が服務規律違反となり、懲戒事由にあたることを明記しておく必要があります。
【育児・介護休業】 男女とも仕事と育児・介護を両立できるよう、柔軟な働き方を実現するべく措置の拡充や介護離職防止のための環境整備、個別周知・意向確認の義務化などの改正が、令和7年4月より段階的に行われています。過去のメルマガにて紹介をしておりますので、詳細はそちらをご確認下さい。
令和7年4月からの育児・介護休業法改正について ➡ 【京都の社労士コラム】必見!!育児・介護休業法の改正が4月1日から段階的に施行されます。
令和7年10月からの育児・介護休業法改正について➡ 【京都の社労士コラム】【改正法対応】2025年10月1日から変わる!育児・介護休業の実務ポイント
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以上は過去の法改正の一部を抜粋したものです。その他の法改正への対応や、自社独自の規定なども現在の運用状況を反映したものとなっているかどうかについて、一度自社の就業規則や各種規程について確認してみましょう。
まとめ
就業規則は会社のルールを定めたものであり、労使間のトラブルを防ぐためにもしっかりと整備しておく必要があります。 また、直近では「育児・介護休業法」の改正が今年の4月及び10月より段階的に施行されています。就業規則等の見直しも求められますので、自社の就業規則がこれまでの法改正に対応したものとなっているかご確認いただければと思います。 もちろん弊社でも就業規則の作成・変更等を承っております。社労士へ就業規則の作成・変更を依頼するメリットとしては、法令順守の確保、専門知識による効率的な作成を行い、労使間のトラブルとなるリスクを回避する規則の作成、また、各事業所の状況やニーズに合わせ、実情に沿った就業規則を作成することができ、労働基準監督署への届出までサポートさせていただきます。 ご不明な点や貴社に合わせた対応のご相談は、どうぞお気軽にお声かけください。
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