A(エース)社会保険労務士法人の足立徳仁です。このコラムでは、人事・労務に関する様々なQ&Aや法改正情報、助成金・補助金などの新着ニュースをお届けしてまいります。
近年、労働時間制度の見直しに関する議論が本格化しており、2026年を目途に制度改正が行われる可能性が高まっています。 企業としては、早い段階から動向を把握し、準備を進めることが重要です。 本稿では、現時点で示されている主な論点と、企業が取り組むべき対応を整理しました。
※本記事の内容は、2025年11月時点で厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」等において議論されている内容に基づき記載しています。具体的な改正条文や施行時期、数値基準(上限日数・時間数など)は確定しておらず、今後の議論により変更される可能性があります。
改正議論の背景と方向性
働き方改革後も長時間労働や人手不足は依然として大きな社会課題です。政府は、労働者の健康確保や休息時間の充実を目的として、追加の制度見直しを進めています。特に注目されている論点は以下のとおりです。
・勤務間インターバル制度の義務化 ・連続勤務日数の上限規制 ・法定休日の特定義務 ・副業・兼業の労働時間通算ルールの見直し など
いずれもまだ審議段階ではありますが、働き方の見直しが求められる方向性は明確です。シフト勤務の多い業種などでは、特に早めの検討が必要になるでしょう。
議論されている主なポイント
1.連続勤務の上限規制(14日以上の連続勤務禁止) 現行の法律では、法定休日として1週間のうち少なくとも1日の休日を付与することが義務付けられています。ただし、業務の都合により困難と判断した場合には、「4週間を通じて4日の休日を付与」すれば、週休1日制の適用を受けない特例が認められています。これにより月初に休みをまとめて与えて、24日連続で勤務させることが可能でした。
しかし、これでは労働者の健康面で大きなリスクがあります。そこで改正案では、連続勤務できる日数を13日までに制限する方向で議論が進んでいます。
2.法定休日の明確な特定義務 現行の法律では、どの日が「法定休日」で、どの日が「法定外休日(所定休日)」にあたるのかを就業規則などで明確に定める義務はありません。法定休日の労働には35%以上の割増賃金が必要なのに対し、法定外休日の労働の割増率は25%以上となるため、この区別が不明確なままだと、休日に勤務させた際の割増賃金の計算でトラブルになる可能性がありました。
改正案では、こうしたトラブルを未然に防ぎ、労働者の権利を明確にするため、就業規則等で法定休日を事前に特定することを義務化する方向で検討されています。
3.勤務間インターバル制度の義務化(原則11時間) 勤務間インターバル制度とは、退勤時間から翌日の出勤時間までに一定の休息時間(インターバル)を設ける仕組みです。過重労働を防ぎ、労働者の生活時間や睡眠時間を確保するために重要ですが、現行法では努力義務にとどまっています。
改正案では、全企業に原則11時間以上の勤務間インターバルの義務化が検討されています。これにより、深夜までの残業が発生した場合、翌日の始業時刻を繰り下げるなどの対応が必要となります。
4.有給休暇の賃金算定における通常賃金方式の原則化 年次有給休暇を取得した日に支払われる賃金の計算方法は、現在、3方式が認められています。 (1)平均賃金方式 (2)所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金方式 (3)標準報酬日額方式
(1)の平均賃金方式の場合には、(2)の通常賃金方式に比べると支給額が低くなる傾向があり、労働者の不利益となる点が問題視されています。
改正案では、賃金の計算方法を「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金(通常賃金方式)」に原則として一本化する方向で検討されています。
5.「つながらない権利」に関するガイドライン策定 「つながらない権利」とは、労働時間外に業務のメールや電話に応じる義務を拒否できる権利のことです。労働者の心身の健康を守り、ワークライフバランスを確保するうえで重要ですが、現状の日本では具体的な施策は整っていません。一方、海外では法整備が進んでおり、特にフランスでは労働法によりこの権利が正式に制度化されています。日本でもこの「つながらない権利」を保障するため、勤務時間外の業務連絡を制限するためのガイドラインの策定が見込まれています。
6.副業・兼業者の割増賃金算定における労働時間通算ルールの見直し 現行法では、複数の企業で勤務する場合、それぞれの労働時間を合算して割増賃金を計算する必要があります。例えば、A社で6時間、B社で4時間働いた場合、B社は法定労働時間を超えた2時間分について割増賃金を支払わなければなりません。しかし、企業が他社での勤務時間を正確に把握することは非常に難しく、割増賃金に関する労働時間の通算管理において企業側の負担が大きく、副業・兼業の許可および受入れをためらう要因になっていました。
改正案では、労働者の健康確保のための労働時間の通算管理は継続されますが、割増賃金の支払いについては労働時間を通算しないという見直しが検討されています。
7.法定労働時間週44時間の特例措置の廃止 現行の法律では、法定労働時間を原則「1日8時間・週40時間」と定めていますが、商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業といった特定の業種で、常時使用する労働者が10人未満の事業場については、週44時間まで労働させることができる特例措置が設けられています。
改正案では、この特例措置を廃止し、すべての事業場で週40時間に統一する方向で検討されています。この改正は、小規模な飲食店や小売店、美容院など、これまで特例の恩恵を受けてきた多くの中小企業に直接的な影響を及ぼします。
参考:労働基準関係法制研究会 第16回資料 資料1 労働基準関係法制研究会報告書(案)
企業が取組むべき対応・準備
改正内容はまだ審議段階ですが、企業は早めに対応を検討して準備を進めることが重要です。
1.連続勤務の実態把握とシフト見直し
- 過去の連続勤務の状況を確認
- 繁忙期、人員不足などの要因を分析
- シフトや業務分担の見直しを検討
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4週4日の法定休日を採用している企業は、働き方、シフト管理の大幅な見直しが必要になります。 まずはこれまでの連続勤務の実績をチェックしてみましょう。繁忙期が理由なのか、人員不足が理由なのか、連続勤務をせざるを得ない理由の分析をして、働き方の見直し等を進めましょう。
2.法定休日の明確化と給与計算の再確認
- 就業規則で法定休日を明確に特定
- 法定休日・所定休日の割増計算の整理
- 給与計算ソフトの設定を確認
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企業は、就業規則の改定を行うとともに、法定休日と法定外休日で割増賃金の計算が正しく行われるよう、給与計算の方法を再確認する必要があります。
3.勤務間インターバルの管理体制整備
- 就業規則の改定
- 勤怠システムの導入・アラート機能の活用(紙のタイムカードなどアナログ管理からの脱却)
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企業は、就業規則の改定を行うとともに、勤務間インターバル(休息時間)の管理を行う必要があります。出勤簿や紙のタイムカードでの管理は現実的ではありません。勤怠システムを導入し、アラート機能などを利用して、従業員の勤務間インターバルの確保に努めましょう。
4.有給休暇の賃金計算方法の見直し
- 平均賃金方式・標準報酬日額方式を採用している場合は変更を検討
- 給与計算ソフトの設定変更が必要な場合あり
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平均賃金方式、標準報酬日額方式を採用していた企業は、就業規則の改定を行うとともに、給与計算ソフトの設定の見直しが必要です。
5.「つながらない権利」への社内対応
- ガイドラインの内容を把握
- 時間外連絡に関する社内ルール整備
- 管理職・従業員への教育
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ガイドラインでは、すべての連絡を完全に禁止するものではなく、「緊急時以外の連絡は禁止する」「時間外の連絡に返信しなくても人事評価で不利益な扱いをしない」といったルールを企業に求めるものになると考えられます。ガイドラインの内容を正しく理解し、ガイドラインに沿って社内ルールを整備し、管理職および従業員への教育を徹底することが求められます。
6.副業・兼業者の割増賃金算定における労働時間通算ルールの見直し
- 副業先での労働時間の把握を継続
- 労働者の健康管理を徹底
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健康管理のため労働時間の通算管理は必要ですので、 副業者、兼業者を雇用されている企業はこれまでどおり、他社での労働時間の把握、自社での労働時間の管理を確実に行いましょう。
7.週44時間特例廃止へ向けて働き方の見直し
- 根本的な労働時間の見直し
- 人員確保の検討
- 生産性向上、業務効率化の推進
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週44時間特例廃止は、小規模な飲食店や小売店、美容院など、これまで特例の恩恵を受けてきた多くの中小企業に直接的な影響を及ぼします。これまで週44時間労働を前提にシフトを組んでいた店舗では、根本的な労働時間の見直しや新たな人員の確保が必要になるでしょう。人件費の増加を避けるためには、業務効率化による生産性向上が急務となります。
まとめ
2026年に向けた労働時間制度の見直しは、これまでの働き方や労務管理の仕組みを大きく変える可能性があります。今回ご紹介した内容の多くはまだ最終決定ではありませんが、方向性としては「労働者の健康確保」「休息時間の充実」「割増賃金計算の明確化」など、企業にこれまで以上の労務管理体制を求める動きが強まっていることは間違いありません。
とくに、連続勤務の上限規制や勤務間インターバル、法定休日の特定義務化などは、単なる規程の修正だけでなく、シフト設計や業務プロセスそのものの見直しが必要になる可能性があります。小規模事業者に影響の大きい週44時間特例の廃止も、今後の人員配置や採用計画に直結するテーマです。
制度の詳細が固まってから慌てて対応するのではなく、 「どの改正が自社に影響しそうか」、「今の運用で問題が起きそうな点はどこか」 を早めに確認しておくことで、余裕を持って準備ができます。
労働時間制度の改正は複雑で、企業規模や業種によって必要な対応は異なります。 当事務所では、各社の状況に合わせた制度の見直しや就業規則の改定、勤怠管理の導入支援などのサポートも行っておりますので、気になる点がございましたらお気軽にご相談ください。
最新情報が入り次第、今後も随時お知らせしてまいります。
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